私は地震学を通して「地球の構造」を知りたいと考えています。 海底は今まで、ほとんど観測されていない未開の地でした。 しかし、地震学者の間では「海底調査から地球の歴史に関わる重大な情報が手に入れられるだろう」とすでにわかっていました。 海底調査は、私にとっても、そして「地球史」にとっても、非常に重要な意味を持っていたんです。 具体的な調査方法として、海底に地震計を置いておよそ1年の間、地震波を観測しました。 そのデータを分析することで、病院のCTスキャンで体の内部がわかるように、地球の内部の構造がどうなっているのか調べることができるんです。 まさに、海底から「地球史」を解き明かす壮大な調査は、船がなければはじまりません。 日本海洋事業さんに運航や調査のサポートをしてもらったおかげで今の研究があります。
現在は「神戸大学 海洋底探査センター」および「理学部・大学院理学研究科」の教員として、学生と共に調査や研究をしており、実習船でもお世話になっています。 学生との取り組みで印象的だったのは、とりわけ熱心に乗船していた学生さんが、そのまま日本海洋事業さんに就職を決めたことです。 うれしい驚きでした。 やっぱり、現場を見るというのは理屈ではない魅力があるんですね。 これからも、地球科学において重要な海洋の現場から、皆さんと一緒に教科書には書いていない学びを伝えていこうと思っています。
JAMSTECで研究を続け、25年以上が経ちます。 中でも東日本大震災の調査のため、日本海洋事業の皆さんと震源域に向かった現地調査のことは特に印象に残っています。 地震発生から3日後、私と同じグループの研究者たちが調査のために緊急航海で現地へと向かいました。 それから、私自身が震源域の調査へ向かったのは、およそ1年後のことでした。 緊急航海の写真は見ていたし、乗船した者から話には聞いていましたが、実際に船内で水中カメラを通して酷く荒れた海底を見たとき、思わず驚きの声が漏れました。 「千年に一度」とまで言われる未曾有の出来事を経験したということは、研究者として正しい記録を残さなければいけない。 今を生きる自分たちにしかできないことを考えはじめたのは、あの日がきっかけでした。
私自身、何のために研究をしているのか。 それは、地球で起こる「突発的な変動」を正しく理解するためです。 変動する地球のことを調べていくと、地震や、火山噴火や、津波など、怖いことばかりが見えてきて、世の中の人たちを不安にさせてしまうこともあります。 しかし、目に見えない変動を記録して可視化することで、将来の予測につながるかもしれません。 今起きていることを正しく知り、起きるかもしれない現象を正しく恐れてほしい。 そのためのお役に立ちたいと思いながら、今も研究を続けています。
自律型海中ロボット(船上とケーブルで繋がっていない単独で潜航する潜水機)。 私は長年その開発に夢中でした。 自分で開発したロボットを用いた研究・調査のため、これまで何度も航海を重ねてきました。 航海において調査結果はもちろん大事ですが、ロボット研究者としてはロボットがよくなっていかないとつまらない。 だから時にはハラハラするような、難しいことにもチャレンジしました。 船の上でロボットの調整を行うのは私で、水中に入れられるかどうかを判断するのは、日本海洋事業の「船長」の役目です。 船長は私のロボット開発の信条や、調査の目的を理解してくれているからこそ、どんな厳しい状況でもどうにか実現する策を考え続けてくれました。 安全を守って「やりましょう」と言ってくれた一言に、どれだけ救われたかわかりません。
私は常々、自律型ロボットは人間のようなものだと言っています。 最初は簡単なことから始めて、だんだんとできることが増えて大人になっていく。 それが開発の肝なんです。 目標は高く持ちながら、段階的にやっていくということでもあります。 まずは小さな実績から技術を積み重ねて、自分の子どものようにロボットを育てていくことで、新しい海洋の世界が見えてくると思っています。
「南極の氷の下はどうなっているんだろう?」という純粋な好奇心。 それが私の原動力です。 元々は大学のアルバイトで、3ヶ月間の南極航海に乗船したことが興味を持ったきっかけでした。 現在は南極域で重力や磁気を調査することで、大陸の形成や分裂について調べています。 海氷の下、誰も見たことがない海底に眠る、太古の大陸分裂の重要なデータの観測を続けることで、今まで知られていなかったことが少しずつ明らかになっています。 南極調査の中で、日本海洋事業さんは洋上のことはもちろん、観測機器も詳しいため、観測全般に関わっていただいています。 観測の支援から、機器のトラブルシューティングまで。 何が起こってもおかしくない南極の限られた条件で「今この場でできること」を的確に提案いただけるのは非常にありがたいことでした。 不測の事態が多い大変な観測ですが、お互いの信頼関係のおかげで貴重な観測データを集められています。
観測を重ね、信頼できるデータが集まれば、今までの常識が覆るような発見があるかもしれない。 そんな「何かを知りたい」気持ちから想像を広げ、事実と照らし合わせていくことで、またわからないことが出てきます。 きっとその繰り返しが、楽しいんだと思います。 「わかる楽しみ」を知っているからこそ、次もまた新たな未知へ挑む。 そんなふうに日々、南極と向き合っています。
私は、宇宙からくるニュートリノを観測して、宇宙で何起きているのかを調べる研究をしています。 すでに観測されたものより、さらに高エネルギーのニュートリノがあるらしい。 それをどうにか観測しようというテーマで、新しい実験がはじまりました。 この研究のポイントは「高エネルギー」というところです。 エネルギー値が高いということは、それだけ得られる情報も多いということでもあります。 宇宙のことをもっと知ることができる、またとない機会でした。
この新たな実験の地に選ばれたのは、南極点です。 ニュートリノは大抵の物質をすり抜けてしまうので、観測の条件として透明であることが重要でした。 果てしなく海氷が続く南極は、非常に観測に適しています。 南極の氷は、厚いところで3kmほどの厚みがあるのですが、その氷に穴を掘り、検出器を埋めるわけです。 そして2012年、ついに探し求めていたニュートリノを発見したときは、宇宙の営みに近づけた喜びで胸がいっぱいでした。
さらに「次世代の検出器を開発したい!」と考えていたときに出会ったのが、日本海洋事業さんでした。 氷を掘って、その穴に沈める検出器に、もっと効率的な形はないだろうか。 そんな構想を実現するため、共に考える時間はワクワクするものでした。 宇宙と深海という異なる分野でも、根底では、宇宙や地球の営みを観測したいという情熱で繋がっていたのだと思います。